【Doctor's Story】登壇者山脇正永先生に聞く、VRを用いた医学教育の有用性。「患者さんだけではなく周囲の環境まで見ることが大切」
導入実績医療教育

【Doctor's Story】登壇者山脇正永先生に聞く、VRを用いた医学教育の有用性。「患者さんだけではなく周囲の環境まで見ることが大切」

AMED研究事業

摂食嚥下(えんげ)とは、食物を認識してから口に運び、取り込んで咀嚼して飲みこむまでの一連の機能を指します。摂食嚥下リハビリテーション学とは、摂食嚥下機能の維持や改善を通して人々の健康維持・介護予防に寄与することを目的とする医学分野です。

2023年9月2日(土)~3日(日)に開催された「第29回日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術大会」では、「摂食嚥下リハビリテーションと多様性」をテーマに、多彩な講演やワークショップ、セミナーなどが行われ、ジョリーグッドもランチョンセミナーを共催しました。ご登壇いただいた東京医科歯科大学の山脇正永教授のお話も交え、当日の様子をご紹介します。

本セミナーは、ジョリーグッドが採択されたAMED研究事業「外傷診療におけるVR遠隔臨床学習プラットフォームの構築」にかかる内容となります。

採択事業詳細:https://www.amed.go.jp/koubo/07/01/0701C_00007.html

VRセミナー概要

テーマ:VRで体験する 訪問診療時の機能評価と患者対応 --摂食嚥下分野における多職種連携教育の新たな可能性--
開催日:2023年9月2日
会場:パシフィコ横浜ノース(神奈川県横浜市西区みなとみらい)

[演目]
VR(Virtual Reality)を用いたシミュレーション教育の取り組みと展望 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 山脇正永)
[登壇者]
座長:戸原 玄(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
演者:山脇正永(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
演者:細木 豪(株式会社ジョリーグッド)

多世代・多職種の来場者で会場は大盛況

学会当日、会場となったパシフィコ横浜ノースは医師や看護師、療法士、学生などさまざまな来場者で賑わいを見せていました。セミナーの控え室では、進行の確認や台本の読み合わせなど、登壇者が詳細な打ち合わせを進める一方、スタッフは用意した100台のVRゴーグルの動作確認や準備を急ぎました。

セミナー開催前の打ち合わせを行う山脇正永先生(右)とスタッフ。

会場に用意した100台のVRゴーグルを入念にチェック。

チーム訪問医療の現場をVRでリアルに体験

今回のセミナーでは、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の戸原玄先生に座長を務めていただき、同科の山脇正永先生に登壇者として講義を行っていただきました。会場は開始早々から満席となり、来場者の皆さんの大きな興味と期待を感じるスタートとなりました。

座長を務めてくださった東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科の戸原玄先生と、登壇者のお一人、同科の山脇正永先生。

まずはジョリーグッドの細木より、300以上の医療VRコンテンツが定額で体験し放題のサブスクリプションプラットフォーム「JOLLYGOOD+」と、高精度VRカメラにより多種多様な医療VRコンテンツをセルフ制作できるVR制作ソリューション「JOLLYGOOD+make」について紹介させていただきました。

セミナーの冒頭、ジョリーグッドの医療教育VRについて細木豪より紹介。

次に山脇正永先生がご登壇。東京医科⻭科大学が、リアルな在宅医療のイメージや多職種連携を学生に体験させる教材作成のため、令和4年度文科省補正予算事業にてVRを導入したという経緯や、現在大学全体でVRゴーグル110台、 JOLLYGOOD+make(セルフ制作機器)3セットを導入され、さまざまなVRコンテンツの制作を手掛けられていることなどをご紹介くださいました。

在宅医療のリアルな現場を再現した山脇先生のVRコンテンツ。

その後、100名の来場者にVRゴーグルを着装していただき、摂食嚥下障害のある患者さんへの訪問診療の様子を再現したVRコンテンツ「神経難病患者の在宅医療〜摂食嚥下機能評価〜」を上映。多職種のスタッフが連携するチーム訪問医療のリアルな現場を体験し、嚥下内視鏡評価の手技や、患者さんおよび介護者へのヒアリング・指導方法などを学習できるコンテンツを、来場者の皆さんは非常に興味深く体験していました。

多職種のスタッフが関わるチーム訪問医療を体験する来場者。

講義後の質疑応答でも、来場者から「介護者の視点が体験できたのが画期的だった」「患者の視点はどのように取り入れていくか」といった質問が出るなど、非常に内容の充実したVRセミナーとなりました。

右から戸原玄先生、山脇正永先生、細木豪(ジョリーグッド)。

より多くの学生・医療スタッフに医療VRを体験してもらいたい

セミナー後、ご登壇いただいた山脇先生にインタビュー。医学教育にVRを活用する意義や今後の取り組みなどを具体的に語ってくださいました。

今日のセミナーは満席のご来場者で、皆さん熱心にお聞きになっていらっしゃいましたね。多職種・多世代の方々が参加されていて、それだけ嚥下摂食リハビリテーションという分野に関わっていらっしゃる方が多いということだと感じました。

山脇 正永先生(以下山脇先生) 本当に盛況でしたね。私自身にも気づきのある貴重な時間となりました。

今回のVRセミナーに登壇され講義を行ってくださった山脇正永先生。

先生は摂食嚥下リハビリテーションのスペシャリストであり、臨床医学教育開発学分野の権威でもいらっしゃいますが、どのような経緯で医学の道を志されたのですか?

(山脇先生)もともとは生化学の研究者になりたかったんです。私が学生の頃はバレキュラー・バイオロジー(分子生物学)がかなり進んできた時期で、いろいろと新しい研究成果が発表になっていたんですが、そういう生化学を応用できる分野はというとやはり医学だろうと考え、医学部に進みました。それでさまざまな分野を勉強するうち、脳神経系が面白くなってきたんですね。当時はまだ治療法も見つかっていない難しい病気が多い領域でもあったので、非常に興味を引かれ、神経内科の道を選びました。

神経内科系の病気は嚥下障害の要因となることが多々ありますね。

(山脇先生)そうなんです。それで私は神経内科の中でも嚥下障害を主に診ていたのですが、嚥下というのは患者さんの生きがいにつながる大切な行為であり、できるだけその機能を維持するためのリハビリも重要になってきます。嚥下リハビリは医師だけではなく看護師・薬剤師・介護士などの多職種でのチーム医療ですので、チーム力向上のためには個々の教育がとても重要になるんです。そうしたことから医学教育に取り組むようになりました。

セミナーでご紹介くださったコンテンツも非常に興味深いものでしたが、先生がVRを医療教育に活用しようと思われたきっかけはどのようなものだったのですか?

(山脇先生)医療教育においては段階的な学習が非常に重要です。そのトップにあるのが実際に臨床で学ぶという段階ですが、その前の段階として、シミュレーションによるトレーニングが必要なんです。これまではシミュレーターを使用したり、模擬患者さんを用意したりして擬似体験をしてもらうことが多かったのですが、医師や看護師に協力してもらわなければならないこともあり、負担をかけてしまっていました。その部分をVRで補完できれば、人的リソースの整備につながり、教育効果も高まるのではないかと考えるようになりました。

今回のコンテンツは摂食嚥下障害のある患者さんへの訪問診療がテーマでしたね。

(山脇先生)実際の患者さんに対し、医師や看護師などの医療従事者がどのように動きどのような診療を行っているか、またそれが患者さんからはどう見えているのか。それを現場にいるかのように体験できるコンテンツがあれば、学生たち初学者にとっても、実際に診療や介護に携わっている現場の人たちにとっても、非常に役立つツールになります。一方、介護者の方たちから自分達がどう見えているかということも重要だと思いますので、その点も考慮して制作しました。

質疑応答では「患者さん目線の映像も見たい」という声がありました。

(山脇先生)その部分もぜひ取り入れていきたいですね。撮影はなかなか難しいのですが、そういう工夫ができれば医療関係者だけでなく介護者さんにとっても良いツールになるのではないかと思っています。

先生は授業でも100台ものゴーグルを使用してVRを取り入れた授業を行っていらっしゃるそうですね。

(山脇先生)もう準備がすごく大変なんですけど(笑)、やはり実際にはなかなか体験できない場面をVRでリアルに体験できますので、学生たちも非常に興味を持ってくれるんですよね。訪問看護や訪問診療では、学生を連れていって臨床学習させることが難しいんですよ。連れていけてもせいぜい一人じゃないですか。

個人のお宅に何十人も連れていくのは無理ですよね。

(山脇先生)そうなると学生も順番待ちみたいになってしまいますし、最終的に順番が回ってこなかったということが起こってしまうかもしれない。けれど、医療の技術だけでなく、チームとしての動き方、患者さんや介護者さんとのコミュニケーションの取り方、さらには患者さんの環境をどう把握するかなど、やはり現場で学ぶことは多々あります。VRであればそういう場面を全員で体験することができますので、教育効果が非常に期待できるツールだと思います。デバイスの用意があれば、個人個人が復習などの自学に使用することもできますし。

ノンテクニカルの部分での学びということですね。今日のセミナーでも、衛生環境の悪化やネグレクトなど、患者さんの状況に気づいてあげることが大切だというお話がありました。

(山脇先生)そうですね。ネグレクトであったり、介護者のバーンアウトだったりという点も、訪問看護のスタッフが気づいてあげる必要があります。だからこそ、患者さんだけではなく周囲の環境まで見ることが大切になりますので、その点も今回のVRでは意識して制作しましたし、今後もそういった現状を再現したコンテンツを増やしていければと思います。また、医療だけではなく、高齢者のウェルビーイング、つまり健康増進に資するようなコンテンツも作っていけたらと考えています。

先生ご自身は、健康管理のうえで気をつけていらっしゃることはありますか?

(山脇先生)歩くことを意識していますね。1日1万歩を目指しているんですけど、急いで歩くのではなく、散歩の感覚でちょっといつもと違う道を選んでみたりして、楽しみながら歩いています。そうするといろんな新しい景色が見えてきたりして、リフレッシュにつながっています。

医学教育におけるVR活用の意義をていねいに語ってくださった山脇先生。お話を伺ったジョリーグッドのスタッフも、今後ますます医療VRの発展に努めていきたいという想いを強くしました。

【プロフィール】

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科臨床医学教育開発学分野 教授 1988年東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経内科に入局。2003年東京医科歯科大学医学部准教授(臨床教育研修センター)に就任。2011年より京都府立医科大学総合医療・医学教育学教室教授。2020年より現職。日本神経学会神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医。

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